ムウ:「いよいよ私達ですね。」

ミロ:「じゃあ、宮順で行くか。…最初はムウ、お前だな。」


 ミロは、全員の前に「ARIES」と台座に記されたフィギュアを取り出した


デス:「おお、結構凛々しいな。マントも付いてて青銅の小僧より豪華だ。」

シュラ:「色も、金色だな、やはり。」

ムウ:「…でも、これ必殺技のポーズですか?…一体、何の技なのでしょう?私はこんなポーズの技、持ってませんよ。」

カミュ:「ううむ、…きっとあれではないか?お前は冥界編に入るまで『聖衣修復屋のお兄さん』だったからではないのか?」

デス:「成る程な。確かに俺達もムウの技を見たことってあんまり無かったしな。」

ムウ:「…貴方の場合、私の技を見た最初で最後があの冥界逆戻りでしょう?

デス:「うっ。」


 真実だけに、言葉に詰まるデスマスク


ミロ:「ほ…ほら、このムウのフィギュア、顔の表情まで良く出来てるぞ。…眉も麻呂…はっ!


 気を取り直させるつもりで発言したミロは、慌てて口元を押さえた

 きゅぴ――ん


 ムウの菫色の瞳に怪しい光が射した


ムウ:「…ふふふ。ミロ、今何か聞こえたような気がしたのですが、私の聞き間違えですかね?」

ミロ:「あ…ああ。きっと、お前の気のせいだ。なっ、なっ?」



 がくがくと、ミロは頭を縦に振り続けた



ムウ:「…ふふふ。そうですよね。私としたことが、聞き間違いとは。」



 ミロの背筋に、冷たい衝撃が走る




デス:「お、このアルデバラン、グレートホーンのポーズが決まってるな。な、カノン。」

カノン:「…ああ。豪放な感じが、あいつらしくて良いんじゃないか?」

シュラ:「…しかし、これ並べてみるとムウと大して大きさが変わらないような気がするのは俺だけか?」

カノン:「本当だな。…これで210cmは有り得ないだろう。」



 友を心配するカミュをよそに、残りの3人の男はアルデバラン以降のフィギュアの鑑賞を続行していた


デス:「…次はサガだな。」


 デスマスクは、「GEMINI」と記された後ろ髪たなびくフィギュアを机の上に置いた



カノン:「……。」

シュラ:「…やはり、自分もいないとつまらんか?カノン。」

カノン:「…いや…。そんなことは無いが、G・Eをかましながらこんな表情を浮かべたサガなぞ、俺は28年間見たこともないぞ、と思ってな。」

シュラ:「う―む、確かにこのサガは、家の周辺をランニングしていたら曲がり角で近所の人にぶつかりそうになってひたすら驚いている人、みたいに見えなくもないな。」

カノン:「…いや、そこまで具体的なシチュエーションは考えてないぞ、俺は。」

デス:「おっ、お次は俺様だな。」



デスマスクは、得意げに自らのフィギュアを取り出した


デス:「おお―、冥界波のポーズだな。なかなか決まってるだろ、な?」

シュラ:「ああ。思っていたより良い造りをしているな。…微妙に表情も嬉しそうだしな。」

カノン:「…しかし、お前、これどっちを向いて技掛けているんだ?顔が斜め前を向いてるぞ。」

デス:「確かに、言われてみればちょっとばかし妙な向きだな。…あっ、しかも目の下に斜め皺が入ってるぜ。…許せん。」

シュラ:「いや、それは100%事実だろう。」


 たまに切れ味の鋭い男、山羊座のシュラ
 エクスカリバー並の痛いツッコミに、デスマスクはぐうの音も出なかった



ミロ:「おっ、これアイオリアだよな。…いいよなー、アイツ、なんか『正統派聖闘士』ってカンジで、明らかに優遇されてるよな―。」


 ムウが山盛りラムネ菓子に再び気を取られているうちに帰還したミロが、アイオリアのフギュアを手に取ってうらやましげに言った


デス:「確かに、アイツの扱いは良いよな。雑兵どもの中には、アイツを理想の聖闘士像と仰いでいるヤツも多いらしいしな。」

カミュ:「技のポーズも男らしくて様になっているな。」

カノン:「…でも、よく見るとこのアイオリアも目の下に苦労皺がくっきりと刻み込まれているぞ。」

ミロ:「あ、ホントだ。…やっぱ『逆賊の弟歴』が長かったからな―。とても俺と同じ歳には見えないなぁ。」

カミュ:「…ミロ、それは自慢にはならんぞ、おそらく。」

ミロ:「…?そうか?」



 けろりとしたミロの横から、カノンがシャカのフィギュアを取った


カノン:「…これは、『天舞宝輪』だろうか?」

シュラ:「…おそらく、そうだろうな。…でも、目が閉じているな。」


デス:「…つ―より、これマラソン中継かなんかで沿道で声援を送っている人みたいに見えるんだがよ、俺には。」



 デスマスクのツッコミに、ミロは噴出した


ミロ:「ホントだ、『頑張れ――っ』って具合に見えるな。」

ムウ:「…しかし、私にはシャカが声援を送るような人間には思えないんですが。」


 一瞬、ぐっ、っと詰まったものの、何故か納得してしまう黄金聖闘士一同だった


カノン:「…こうしてみてはどうだ?」


 カノンは、2体あるシャカのフィギュアを対面に置いた


カノン:「木霊」

一同:「……。」



 そんな「やっほ――――」なシャカなど、考えられないとその場で全員が心底思った



ミロ:「お次は…っと。」


 ミロが台座にLIBRAと書かれたフィギュアを持ち上げた時だった



一同:「…誰だ、これ?」



 一瞬、固まる黄金聖闘士達


シュラ:「…ひょっとして、老師じゃないか…?聖衣からして。」

カミュ:「え?この顔はミロだろう!?ミロ、…お前順番が待ちきれなくて一つ前の宮の聖衣を装着したんだろう?」

ミロ:「…いや、いくらなんでもそこまではしないぞ。…それに俺だったら、もう少し髪が長いだろう?」

デス:「しかし、そんなのは作画スタッフによってコロコロ変わるんじゃねぇか?」

ミロ:「…え?…じゃあ、やっぱりコレ、俺なのか…?」

ムウ:「……次のフィギュアを見れば良いのではないですか、それこそ。」



 ムウは、天を指差すフィギュアを手に取った


ムウ:「…やはり、こちらがミロでしょう。その証拠に、ほら、ヘッドパーツを手にしたまま装着してませんし。ね?」

シュラ:「…そうだな、マントもはためいているしな。」

ミロ:「…お、おお!やっぱりこっちが俺だよな。…いや―、そうじゃないかと思っていたんだよ!」

カノン:「……お前、自分のフィギュアぐらい自信を持って判別しろよ。…だいたい、これを購入したのもお前だろうが。」



デス:「…次は、アイオロスだな。」


 やや暗く、デスマスクは呟いた後、フィギュアを手に取った


カミュ:「…正義の漢、そのものだな。」

ムウ:「…ええ。大変素晴らしい人だったようですよ。」

ミロ:「…何と言っても、次期教皇候補だものな。」

シュラ:「…いいかげん、俺を追い詰めるのは止めてくれ!…解っている、どうせ俺が悪いのだろう!」

ミロ:「…い、いや、そんなつもりで言ったわけではないぞ、シュラ。」

ムウ:「私はそんなつもりでしたけどね。」

カミュ:「……。(汗)」

デス:「…まあ、もういいじゃねえか。そのくらいにしておこうぜ。」

シュラ:「お前が言うな。」

デス:「お――?ま、良いってことよ。気にしたって故人は還ってこないしな。それにしても、このフィギュア、随分格好が良いな。聖衣に羽根が付いてるっていいよなぁ。」

カノン:「…お前も欲しいか、羽根。」

デス:「いや、羽根の生えた蟹なんて、実現しても唯のギャグだからな。…遠慮しとくぜ。」

カミュ:「アイオロスは、ポーズも良いな。…天を射る、といったところか。」

シュラ:「…しかし。」

一同:「矢が曲がっている!!」

カミュ:「…まあ、パッケージングの問題なんだろうな。…しょうがない。」

ミロ:「…そうだな。」



 ミロは、次のフィギュアを取り出した


デス:「おお!シュラ、お前の番だぜ。」

ミロ:「すごいな、このポーズ。エクスカリバーだと一発で分かるな。」

カミュ:「マントの角度が、凝っている。シュラの拳圧で舞い上がっているようだな。」

シュラ:「……。」

ムウ:「すごいツッコミポーズですね!かっこいいですよ、シュラ。爆笑オン〇アバトルにでも出たら、意外と受けるかもしれませんよ。」

カノン:「…おい、ムウ、それは褒めてるつもりなのか…?」

ムウ:「勿論ですよ。だって、ほら。」


 ムウは、突如デスマスクのフィギュアを取り出し、冥界波を繰り出しているデスマスクの右腕と頭の谷間に、シュラの手刀を差し込んで空中で均衡の取れた状態にした


ムウ:「ほら、これでデスマスクのさっむい俺様ギャグにツッコミを入れるシュラ、の完成です!…見事なコンビじゃないですか。」

ミロ:「うわっはは、いいな、それ。」

デス:「……。」

シュラ:「…ムウ、俺はお前に何かしただろうか?」


 ムウにコンビを組まされた2人が微妙な感情を味わっているころ、カノンはカミュのフィギュアを手にしていた


カノン:「…次は、カミュか。…しかし、これは…。」

ミロ:「おーい、カミュ、お前も背中に穴が開いてるぞ―!これで氷河とお揃いだな。…あっ!」



 びょおおおおぉぉぉ――――
 再びミロの部屋にブリザードが吹き荒れる



カミュ:「…ミロ。やはり、あれは氷河だったのだな。…薄々そうではないかと気が付いてはいたのだが。…しかし、いいのだ、これで。…ふっ、これで私は真にお前とクールな師弟となれたのだ、氷河よ…。」


 カミュは、自分のフィギュアの背にぱっくりと開いている穴を見詰めて呟いた


デス:「…ケツに穴が開いていたらクールなのかよ、カミュ…。」


 寒さに身を震わせながら、渾身の力を振り絞り囁いたデスマスク
 …流石は芸人である(違)


 ミロに宥められたカミュにより、5分後、再び天蠍宮は平和を取り戻した



デス:「お―、やっと最後まで来たな。」


 デスマスクはPISCESと記されたフィギュアを手に取った


ミロ:「おっ、アフロディーテ、意外と可愛いな。」

カノン:「…ブラッディローズか、このポーズ。」

ムウ:「…それにしても、彼の場合、フィギュアにも薔薇を付けて欲しかったですね。…これじゃあ、手旗信号みたいですよ。」

シュラ:「俺は、顔の表情がよく分かりにくい方が気に懸かるが…。」

ムウ:「…さて、これで全部のフィギュアも鑑賞し終わりましたね。ラムネも全部頂いたことですし、私はそろそろ帰ります。」


 ムウの相変らずの言葉を皮切りに、天蠍宮に集った黄金聖闘士達は散会し始めた







シュラ:「…?」

カノン:「どうした?シュラ」



 天蠍宮を出たところで、訝しげな表情を浮かべたシュラにカノンは声を掛けた


シュラ:「…いや、気に懸かるというほどの事でもないのだが、ミロが購入したフィギュアは20個だろう?」

カノン:「…ああ。それがどうした?」

シュラ:「シークレットの教皇を入れても、全部で19種類のはずなのに、どうしてジェミニとバルゴが2つあったのだろう、と思ってな。」

カノン:「…!確かにそうだな。青銅と黄金が全員いるのだから、それで揃っているような気がしたが…。」







ミロ:「…あっ!」


 その頃、天蠍宮の私室でフィギュアを並べていたミロは叫び声を上げた


ミロ:「…女神が無い…!」





 後日、オークション経由で相変らず杖の曲がった女神を取り寄せるミロの姿があった
 …こんな彼らは全員、「女神の聖闘士」の最高峰に位置する




     
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