「ιστορικο των παπων」―――敢えて日本語に訳するなら「教皇に関する記録」とでも表現出来る一冊の分厚い書物。
今、まさにサガの大きな掌に収められている書のタイトルがそれだった
神代より連綿と受け継がれて来た『教皇』について、その任に当たった個人個人の記録が収められた、書架外持ち出し禁止の貴重な本である
紀伝体と表して差し支えない形式に則って記された各章は、章の持ち主である教皇一人一人の本名・守護星座・出身地などの個人データから始まり、生い立ちや修業時代の記録、聖闘士としての業績や教皇就任の経緯、更には教皇就任中に起きた事件・事故やそれらへの対応に至るまで事細かに記載されている
――無論、各章の最後は教皇本人の最期で締めくくられているが、全体として非常に淡々とした描写がなされているのは、常に死と隣り合わせの聖闘士の世界ならでは、であろう
一体誰が斯くの如き秘事の集大成を書き記したのか気にならなくもないが、各章の文体・文字から滲み出る微妙な癖にばらつきがある点から考察するに、おそらく教皇の代替わり毎に前教皇の章が作成されているのではないか、と実際に読み進めるうちにサガは考えるのであった

不気味なまでに静まり返った書架に、サガが時折ページを捲る音だけが拡散する
幾許かの焦燥感に駆られつつサガが注視するのは、各章における教皇の聖闘士時代の記述周辺であった
確固たる疑念を持って演繹的に読み進めている以上、必要最小限の部分を検分する時だけはサガの目付きも一層険しくなり、自ずと眉間には彼の年齢に相応しからぬ縦皺が深く刻み込まれていた
時代の古い順に一人、そしてまた一人と聖闘士時代の記録を――それも特に十代から二十代に掛けての時期を――丁寧に吟味する
歴代教皇全員の該当時期のデータを検分し終えるのに要した時間は凡そ二時間弱程度であったろうか
殊更ゆっくりと本の表紙を閉じたサガは、青褪めた顔の口元から一つ溜息を落とした


「………やはりそうだったのか…!!半年もの間気付かなかったとは迂闊だった………。」


――教皇。ここ聖域の頂点に立つ、唯一無二の存在(おとこ)。
一体何時からその存在を「教皇」と称するようになったのかは一つの謎であるが、この国が多神教文化下であった頃には恐らく別の呼称が充てられていたのではなかと考えられる
何故なら、古代ギリシャ・ローマ時代にあっては、宗教面での最高指導者は当時の政治の第一人者が兼ね、女性の神官長<ヴェスタ>やその女官等を除いては神の教えを専らの生業とする者は居なかったからである
そう考えると、或いはこの「教皇」に類する存在自体が在り得なかった可能性も否めないが、今はそれは置いておく事にする
…仮に、この国にキリスト教と言う一神教文化が根ざしてより「教皇」の呼称が使用されるようになったと考えても凡そ二千年近くの間、数多の教皇がこの聖域に君臨した計算になる
今、その一人一人の記録を具に検分したサガは、とある共通点に気付いた

『未婚』、それが教皇となる隠された絶対条件だったのだ

…多少の立場は違えど、この国の大部分の人間が帰依する東方教会(キリスト教の一派:カソリックやプロテスタントとは一線を隔し、一般的には『ギリシャ正教』『セルビア正教』のように国単位で呼ばれる)においては一般聖職者は婚姻を許されるが、司教などの高位聖職者になるには独身を貫かねばならないと言う暗黙の絶対条件があるのは、聖域の住人であるサガも周知の通りだ
一方の聖域では―――構成員としての聖闘士をキリスト教の一般聖職者と比するのは少々問題があるやもしれないが―――聖闘士にはこれまた暗黙裡にではあるが妻帯、または結婚が許されている
…丁度、今サガやアイオロスに許婚が選ばれている様に、多くは聖域側の星占により結婚が取り決められる事が多い
「星占」などと称すると非常に尤もらしく聞こえるが、これは、聖域を支持し崇拝する近隣の村々と聖域との結びつきをより強固にする目論みの一環であると言えよう
ともあれ、一般の聖闘士に結婚が許されているのは聖域の誰もが知っている事実だ
だがその点だけに終始せず、この事実を東方教会のシステムに当てはめて考えてみればどうなるだろうか
もしや…と思い当たって調べてみれば、案の定誰一人として教皇が妻帯していた形跡は無かった

―――結婚していては教皇にはなれないのだ

サガは無言のうちに両の腕を深く、前に組んだ
…記録の中では、若くして教皇となった者の内数名に婚約者が存在した記述があった
ただ、教皇就任に当たり、全員が婚約を破棄している
――そこに、サガの唯一の勝機があった
サガの脳裏に、先刻のアイオロスの笑顔がよぎる
『いつかはまだ判らないが、結婚式の日が今から楽しみだよ。』
アイオロスの言葉には、一点の偽りも存在しない
それは義に生きる事を第一とするアイオロスの、最大の美点であると同時に最大の欠点であったのだ

…許婚を捨てねばならないと知って、あの男<アイオロス>が果たしてそれを実行に移すだろうか

サガの目に、一条の鈍い光が宿る
自分か、アイオロスか。どちらかが次期教皇に選ばれるらしいと耳にして既に久しい
顔を合わせる時は互いにその事は口に出しはしないが、相手の心の底にもいつもそれがちらついているのは気付いている
教皇。それはこの聖域の第一人者に君臨すると言う事
完全なる縦社会・聖域に属する構成員に取って、それは何物にも替え難い魅惑を孕んだ存在であるのだ……例え終生の独身を余儀なくされたとしても、だ

………だが、それは同時に諸刃の剣なのだ。この私に取っても。

屈託無く微笑むの横顔がサガの脳裏を掠めた
半年近くの時間を掛けて、今ようやく打ち解けて来た己の許婚の存在は、日増しに大きくなっている……無視できぬ程に
教皇を取るか、それとも許婚を取るか。ライバルであるアイオロスは未だ気付いていない択一問題に、聡いサガだけがそれ故に直面している

は愛しい。そしてそれは、断じて星占で定められたからではない。………だが。

一構成員として、聖域の頂点に立ってみたい思いも否めない
何せ、数多の聖域構成員の中で、自分ともう一人のたった二人だけが頂点に立つ資格を持ち合わせているのだ
聖域で育ったサガに取って「社会」とは、やはり聖域の事を指すに他ならない
今彼に与えられたチャンスは、サガが自分で思った以上に大きく魅力的だった
耳元をくすぐる蠱惑の声に暫時己を忘れかけたサガは、そこまで来てふと一つの事に気付いた

…そうだ。許婚の居た教皇の…その相手は、その後一体どうなったのだろうか?

記録は何も語らない
故に想像してみるより他にないが、この国には「歳若き寡婦は、三年の喪に服した後は再嫁を許す」と言う慣習がある
寡婦ですら再婚を許されているのだ。いにしえの事とは言え、もしかしたら誰か他の男と結ばれて一生を過ごしたのではないだろうか
聖域側としても、村々への影響を考慮して元許婚に対しての誠意は見せた筈だ
彼女を少なくとも物理的には婚約から完全に解き放つなり、別の男性を紹介するなり手立てはいくらでも講じられたに違いない
年嵩に似付かぬほど恐ろしく冷静に考えて、サガは今一度脳裏にを思い描いた―――婚礼を迎えるまではと思い定め、未だ指一本触れぬ己の許婚を。

…今ならば、まだ引き返せるのかもしれない。を傷付けずに済むのなら…


「いや、傷付かぬ筈はないな。指一本触れられていないからと言って、婚約者には変わりあるまい…。」


フ…とサガは呼気を一つ洩らして自嘲の笑みを浮かべた
自分の野望のために一人の女性の人生を変えてしまおうと一瞬でも考えてしまったのだ、無理も無い
これほどまでに他人に非情を抱ける自分を、サガは蔑まずにはいられなかった
…だが、このまま教皇の座を欲するのであれば、に冷たく接する事での傷を最小限に抑える事は可能かもしれない

教皇の座を捨ての手を取るか、それともが近い将来に負うであろう心の傷を今から最小限に抑えるか。……果たしてどちらが本当の愛なのか


「…愛、などと、今更この私が口にするのもおこがましい………。」


自らを蔑む事でが救われる訳ではない
だが、サガは自分を徹底的に嘲笑わずには居られなかった


その日を境に、サガはピルゴス村を訪う度、に悟られぬ様至極僅かづつではあったがと距離を置いて接するように心がけた
だが、元々心憎からず思っていたの笑顔を見るにつけ、己の心の中で教皇の座への執着と拮抗するへの想いが重い鎌首を擡げ始めてしまうのだった

………これより何年の後に、私はと結ばれる。それで良いのではないか。それの何が不満なのだ、サガよ………

一方のもまだ十四の少女とは言え半年もの間接し続けて来たのだ、サガのその微妙な変化に全く気付かない訳はなかった

…何でもないと、サガ様はそう言ったけど……。

手作りのハーブのクッキーを台所に取りに向かいながら、の心の空模様も外の曇天同様に、今にも一筋の雫を滴らせ始めようとしていた






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その日、聖域には爽やかな青空が広がっていた
早春を感じさせる気持ちの良い空気を肺一杯に吸い込んで、サガは自分の守護する双児宮から教皇宮を見上げた
アイゲウスの海を映す空と、教皇宮の列柱群の白亜のコントラストが非常に美しい
…が、当の本人の心中は、冬の海の様に穏やかならざる漣が絶えず引いては押し寄せていた
前日の日暮れ時だっただろうか、突如雑兵が彼の元を訪い、翌日に教皇より話がある旨を伝えた
昼下がりに出頭せよとの話だったが、サガにはその内容の予測は既に幾つか考えられる

…最悪の場合、次期教皇の決定の沙汰やもしれぬが…

そこまで考えて、サガはふと小首を傾げると僅かに笑った

『最悪』の場合などと………自分の中では既に悪い方向へ話が行っているではないか
全く、我ながら悲観的な事だ

サガが己のペシミスト加減を笑ったのには、理由があった
遣いで来た雑兵の話では、呼ばれているのはアイオロスと自分の二人だが、謁見自体は一人づつであるらしい
次期教皇決定の宣告であれば、候補者である二人を同時に同じ場所へ召さねばおかしい
従って、今回の用事は少なくとも次期教皇決定の発表ではない筈である
それが解っていても尚、要らぬ心配を抱いてしまう自分がサガは滑稽であったのだった
だがしかし、宣告自体は無くとも、内示めいた物はあるやもしれない

…その意味では、やはり安堵するには早いかもしれぬ

サガはその視線を教皇宮から若干下げ、人馬宮を見た
自分より先に呼ばれているらしい、その男の守護する宮殿を

……止めだ。今は無駄な事は一切考えまい

聖衣のマスクを左手から右手に持ち替え、サガは巨蟹宮へと続く階段を昇り始めた





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「アイオロス、どうした一体…!?」


彼にしては珍しく感情の篭った声を、サガはアイオロスに投げ掛けた
…至極単純な話だが、驚いたからである
それもその筈で、今、サガの目の前には彼がこれまで見た事も無いほどに青褪めた同僚の姿があった
先刻より教皇宮の重苦しい鉄扉の前に座して控えていたサガだったが、アイオロスの只ならぬその様子を前に、自ずと腰が浮いてしまっていた
アイオロスが退出すると同時に再び扉は不気味な音と共に閉ざされ、その中の様子はサガには一切窺い知れない
計算されたかの如く最大限落とされた灯火が、アイオロスの聖衣の後翼にゆらゆらと暗い影を落とす


「アイオロス。…気は確かか?」


浮き足立ったサガはその足でアイオロスの傍に寄り、金色の聖衣に包まれた肩に手を触れた


「…あ…ああ、サガか。」


恰(あたか)も今初めてサガの存在に気付いたと言わんばかりに短く答えたアイオロスの顔にはまだ生気が無く、まるでどこか別の世界に心を連れて行かれた様にも思える

…何だ、一体この中で何があったと言うのだ。アイオロスほどの男がこれほどまでに憔悴し切っているとは…

一歩、その足を踏み出すと同時によろりと身体の均衡を崩し掛けたアイオロスを咄嗟に支え、サガは閉ざされた空間を扉越しに一瞥した
カシャリ。
アイオロスの聖衣の金属が触れ合う澄んだ音がサガの耳を掠め、サガの意識を今一度現(うつつ)に引き戻した
腕の中の同僚が、まだ衝撃に引き攣った顔でサガを見上げる


「…サガ、お前は………お前だったら……。」

「…何だ、アイオロス?」

「いや…何でもない。気にしないでくれ、サガ。俺の謁見は終わった。次はお前の番だぞ。」

「ああ、無論承知している。」


……この男<アイオロス>らしくない。

核心より若干ぼかすような勿体付けた物言いは、寧ろサガのものである
この方、アイオロスがこの様な物言いをするのを耳にした事の無いサガは、再度アイオロスに降り掛かった今回の事態を懸念したが、やはり自分を納得させられるだけの信憑性のある仮説は何一つ思い浮かばなかった
…いや、それどころか、これから自分にも何かが起こるのだ。かなりの高確率で
アイオロスの様子は正直気に掛かるし心配でもあるが、今は自分自身の覚悟を決めるのが先決だ
顔面蒼白のままよろよろと歩き出したアイオロスに軽く会釈を返し、サガは射干玉の闇を映した扉の前に再び座した
…ギ…ギギ……

…何度聞いてもうそ寒くなる音だ。

伏せた瞳の奥でサガは小さく呟いた
錆付いた鉄扉が内側より完全に開かれるのを待って、サガがその場に身体を起こす

…今から私の身に何かが起こる。

―――儘よ。
サガは一つ胸腔に空気を吸い込むと一歩、前へ踏み出した
控えていた通路同様、いやそれ以上に照明の落とされた謁見の間は、通路と異なりスペースパターンが異常に広いが故、余計にその暗さが引き立って空恐ろしく感じられる


「衛士は皆、退がれ。」


薄暗い空間の、更に一番奥から重厚な声がサガの鼓膜を震わせる
無言のうちに視界から消えた衛士達と共に、例の扉が不気味な音と共に再三閉じられた
屹立したままのサガは背筋の寒くなるその音に暫し耳を傾けていたが、はっとして部屋の中心部へと歩みを進め、片膝を折って跪礼した


「双子座のサガ、罷り越しました。」


14歳とは思えぬほど、文句の付けようの無い完璧な恭しさである
サガのこの奏上に対して教皇がどのような表情を示したのかは、仮面に遮られて残念ながら窺い知れない
ただ、短い返答だけが返って来るのみだった


「近う。」

「御意。」


パサリ。
サガが片膝を付いたまま身体を前進させるに伴い、背のマントが柔らかな衣擦れを醸す
その様も見る人物が見れば実に優雅なのが判るだろうが、当の本人は教皇を前に、ただ礼を逸する事の無い様に努めているに過ぎない
凡そ十歩ほどの間を置いて、サガはそこで前進を止めた
相変わらず顔は伏せたまま、教皇の発言を待つ
サガの視界に入らぬままの教皇は、黒衣を微かに揺らしてその老いた身体を少しばかり前に傾げた


「…サガよ、此度はお前に一つ尋ねたき議があって、こうして呼び出した次第だ。」

「…はっ、何なりと。」

「では回りくどい物言いは止めにして、核心を突く。心して答えよ。」


そこまで言い放つと、教皇は前に傾けた身体を玉座の脇に凭れさせた
サガは己の胸が早鐘を打つのを感じつつ、平静を装うために伏せた瞳を軽く閉じた


「サガよ。お前とアイオロス、二人のうち何れかが次代の教皇に就任するやもしれぬ、と言う話は知っているか。」


―――来たのか、遂にその日が!

サガの体内の血液が、俄かに滾り始めた
今回の呼び出しは教皇選とは関係無いだろうと思っていただけに、サガの身体に走る緊張は並々ならぬ物だった
…とそこまで来て、サガは再三はっと気付いた

…これが次期教皇決定の沙汰としてだ。では、先程のアイオロスの蒼褪めた顔が意味する物は………!

勝ったのか、自分が。
サガは表情にはおくびにも出さない様、己の高揚した気持ちと格闘する一種の喜びに包まれた
伏せた顔を今にも上げてしまいそうだ
…だが、残酷にも現実はそこに水を注した


「サガよ、喜ぶのはまだ早いぞ。」


サガの心臓が一瞬にして凍り付いた
教皇に選ばれたとぬか喜びをしてしまっただけではなく、それを目の前の教皇に悟られてしまったのである
常に己を律しようと心掛けるサガに取っては、それは正に恥ずべき事態以外の何物でも無い
蒼くなったのは、アイオロスではなくサガの方であった
サガは相変わらず面を下げたままではあるが、その顔色がみるみる変化するのは当の教皇にはお見通しであったに違いない
身動ぎ一つせず、教皇は続けた


「…サガよ、今のお前の心中がどうあれ、二人の内より一人を教皇に選ぶ事に相違は無い。安心せよ。
 私がお前に訊きたいのは、お前に教皇になる意思があるかどうかだ。」


…私の首は、皮一枚の所でまだ繋がっているようだ。

サガは教皇のその一言に俄かに安堵したのか、何時もの彼を取り戻した
伏せた瞳を半分ほど開き、取り分け慇懃な声音で意思を露にする


「論ずるまでもございません。」

「そうか、教皇になる意思があるのだな。」

「御意。」

「…では、次期教皇に任ずるに当たり、一つ条件を課すが、履行出来るか?」

「…何なりと。」


再度深々と頭を垂れたサガを見下ろし、教皇は仮面の下で目を見開いた


「………現在の婚約を破棄せよ。教皇たる者、配偶者を得ることは罷りならん。」


…やはりそうだったか…!

サガは再三、己の予感の正しさを実感した―――このような状況で実感する事ではないかもしれないが
以前、書架で教皇の記録を調べて以来、サガの心の片隅に引っ掛かっていた一つの疑念は今確信に変わった
先刻アイオロスが蒼くなっていたのも、恐らくは同じ要求を付き付けられたからに違いない
全ての符牒がピタリと音を立てて組み立てられて行く――そう、まさに自分の考えていた通りに
サガは己の見通しの正しさを実感すると同時に、今彼が置かれている現状を見回して己がどう決断を下すべきか即座に判断した
…予感を持っていた人間に取っては、それは決して難しい事ではなかったのである
一呼吸ほど挟んで、サガはその端正な唇を開いた


「承知仕りました。」


サガのその返答に対し教皇は暫く黙していたが、やがてゆっくりと玉座より腰を上げた


「あい分かった。サガよ、今日は足労であった。もう退がって構わぬぞ。
 …但し、今日の話は他言無用の事。」

「御意。」


短く返答したサガはその場に立ち上がると教皇の背に一礼し、謁見の間を退出した
自分の背に向けて重暗い鉄扉が閉ざされる不気味な音を聞きながら、サガはの笑顔を思い出した

……すまない、。私はどうしても自分の野望<のぞみ>を捨てられないのだ。

サガが断ち切ろうと思うほどに、の笑顔は何故かより一層強く彼の脳裏を掠めるのだった








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