「貴女がさんですね。ようこそアスガルドにお越しくださいました。私はこの国を守り給う大神・オーディンの代行者を務めるヒルダと申します。」

と申します。この度はお招きに与りまして、真に有難き幸せにございます。」


…この女(ひと)がオーディンの代行者・ヒルダ…
女神とはまた違った美しさを持つ方だわ。「神」そのものではないけれど、やはり何がしかの神々しさを感じる

貴鬼に伴われてアスガルドに辿り着いたは、己を出迎えたこの地の最高位者のその美しさとあまりの若さに驚いた
泉で出会った貴公子・ジークフリートと同じく銀色掛かった髪は、ほんのりと青みを帯びて白い貌をやわらかく包んでいる
どうやらこの地には銀色の髪と薄い碧眼を持つ人間が多い様だ
それは、この大地を被い尽くす雪と氷の色合いにも似ていた
ギリシャと異なり太陽の恵みを受けぬこの地では、人々の色素が遺伝的に薄いのだろう
ヒルダの横に寄り添う様にして立っている少女の髪だけは金色を呈しているが、やはりその色合いはかなり薄く、どちらかと言えばプラチナブロンドに近い
が少女をちらりと見ると、彼女はこちらに気付きにこりと微笑んだ


「私はヒルダの妹のフレアと申します。どうぞ私のことはフレア、とお呼び下さいね。」

「フレアは私の大切な妹であり、同時に私を支える片腕でもあります。どうぞ仲良くしてやってくださいね、さん。」

「はい。こちらこそ、何卒よしなに。」


女神の代理に当たるの言葉はまだまだ堅い
初対面である以上、礼儀は確かに必須ではあるのだが、場合に拠っては些か必要悪じみた印象を与えるのもまた仕方の無い事実である
ふふ、と何やら楽しげな笑いを洩らし、大神の代行者は手元の鈴を鳴らした


「お入りなさい。」


ヒルダの持つその良く透る声がワルハラ宮殿の冷たい空気を振動させ、和やかな中にも荘厳な雰囲気が場を支配した
ギギ…と重苦しい音を立てて入り口の扉が開く
扉の向こうには、十人近い男たちが恭しく片膝を突いて座していた


「さあ、中へ。」


ヒルダの傍らの金髪の少女が声を掛けると、彼らはスックと立ち上がって部屋の中へ歩みを進め、ヒルダの対面に立つの後背すぐ近くで再びその片膝を落とした
彼らに応えるべく、は後ろに立つ彼らを顧みた
何やら屈強な男たちが自分に対して恭順の姿勢を取っている様に思えただが、無論それがヒルダに対して捧げられたものである事は重々承知している
男たちは一様に面を伏せているためその顔は判らないが、何れ劣らぬ屈強な体格の持ち主が揃っていた
…しかし、中にはと殆ど変わらぬほどの体躯の男も混じっているようではある
1,2,3…と内心でその頭数をが数えていると、後ろのヒルダが笑った


さん、彼ら7人……いえ、8人は、このアスガルドが誇る勇士達です。」

「勇士達…と申しますと、では彼らが音に聞こえた『神闘士』………!」

「そうです。この度彼らは…さん、貴女に大変なお世話になりましょう。ですから是非ご挨拶を…と思いましてね。
 …皆、顔を上げなさい。こちらが聖域の泉守・さんです。」


ヒルダが掛けた一声に応じ、男たちは一斉に伏せた顔を上げた
…その中には、の記憶に新しい一人の男も混じっている

…ジークフリート…

一番左端に座すジークフリートの白い顔を、はじっと見詰めた
それに気付いたジークフリートは、表情を変えぬまま僅かにその色素の薄い瞳を床に落とした
の後ろに立つが故に二人の遣り取りに気付かぬヒルダは、男たちを順に紹介した


「左から順に、ジークフリート、ハーゲン、トール、アルベリッヒ、フェンリル、シド、バド、ミーメです。
 それぞれ順に北斗七星の α から η までの守護星を持ちます。」


…女神のお話にあった『神闘士』は確か7人だと思ったけど、全部で8人いるわよ…?
それに α から η までだと文字は7つだけど…

がよくよく目を凝らして見ると、全く同じ姿形の男が二人混じっている
それは右から二番目と三番目の男だったが、二人とも非常に色の薄い銀髪を短く切り揃え、前髪を後ろに流している
服装の趣が多少異なるものの、淡い褐色の目からその肌の色までまったくの瓜二つだ


「シドとバドは双子なのです。今は、二人で一つの星を守護しているのですよ。」


成る程、双子の神闘士ね。はヒルダのその説明に、感慨深く頷いた
それは、彼女の住む聖域にも同じ境遇の男たちが存在する事に起因する
…ヒルダの「今は」と言う言葉が何やら微妙に引っ掛かったが、双子に関する事情は何処も似たようなものだと言う事だろう
苦笑したい気分を必死に抑えて、は替わりに短い溜息を一つ落とした


「…では、貴方達はこれにてお退がりなさい。私とさんは、これからについてまだ少々話があります。皆、ご苦労でした。」


主の言葉に再び機敏に反応し、男たちは無言で立ち上がった
その様はまさに「騎士」の名に値する
…中でも、ジークフリートの物腰の優雅さは群を抜いていた
扉が再度閉ざされるまで、は感嘆を交えた眼差しで彼の後姿を見送った
男たちの気配が遠くなったのを確認して、ヒルダがを招き寄せる


「…それで、さん、もし宜しければお持ちいただいた『銀星砂』を私にお見せくださいますか?
 お恥ずかしい話ですが、私はまだ『銀星砂』を見たことがないのです。」

「ええ、勿論喜んで。」


は、二つ返事で携えた包みの覆いを取り去った
オリーブの木で作られた箱の蓋を取ると、中から大人の頭ほどの大きさの壷を取り出し豪奢なテーブルの上に静かに置いた
赤土の上から黒い釉薬を掛けて焼かれた壷には、金色の絵の具で細密な絵柄が施されている
が壷の蓋の摘みを持ち上げて外すと、カチ、と陶器の触れ合う音が微かに聞こえ、中にぎっしりと詰められた白っぽい色合いの砂が眩い光を放った


「…これが『銀星砂』ですか…。美しいですね。」


ヒルダの整った口元から、感嘆の吐息が漏れる
側から壷を覗き込むフレアも、大きな目を丸くしてその驚きを顕にした


「そちらでも貴重な『銀星砂』を遥々私達の国までお持ちいただいて本当にありがとうございます、さん。何とお礼を述べて良いものか…。」

「いいえ、そちらの状況に、我等が女神も大層御心を痛めておいでです。…困った時はお互い様、と申しますほどに、どうぞお顔をお上げくださいませ。」


目の前で深々と頭を垂れたヒルダに驚き、は慌ててヒルダの手を取った
二人の様子に耐え兼ねたフレアは、そっと己の目元を拭った
に手を取られたヒルダも、同様にうっすらと涙を浮かべている


「私達に出来る事があれば、どうぞ何なりと仰ってください。修復に必要な道具など、出来得る限りこちらでも整えさせていただきます。」


…え……?

二人の姉妹と共にすっかり感極まっていたは、己の耳を疑った

…『修復に必要な道具』って、一体どう言う事………?

急に眉を顰めて表情をかき曇らせたの様子を察し、ヒルダが不安げに訊ねた


「あの…どうなさったの?私、何かおかしな事を申し上げましたでしょうか…?」

「は…いえ、その…。不躾で申し訳ないのですが、今『修復』と仰せになりましたか…?」

「ええ、確かに申しました。さんがこの『銀星砂』を使って神闘衣を修復なさるのに必要な物があれば、こちらで喜んで用意させていただきます。…それでは何か差し障りがありますか?」


…神闘衣を…修復!?私が…?

は一瞬、気が遠くなった
自分は『泉守』としてアスガルドに『銀星砂』を届けに来ただけではなかったか
一体、何がどうなっているのか。まったく話が見えない
ヒルダに対してダイレクトに訊ねたい気持ちを抑えて、は脳裏で言葉を選んだ


「あの…私が神闘衣の修復技能を持っていると言う事は、一体何処で…。」

「我々に残された古い言い伝えです。今からもう100年以上前の話ですが、隣国との間にそれは苛烈な戦が起きました。
 その際、時の地上代行者の願いに応え、大神オーディンは我々に神闘衣を貸し与え給うたとか。
 オーディンは平和を愛する神ゆえ、他国を侵略する闘いには御力をくだされませんが、他国により我が国の平和が乱される時にはその加護を与えてくださると言われています。」


ヒルダは、宮殿の彼方に立つ大神像の方角を振り仰いだ


「オーディンのご加護を賜り、我々の国は隣国を退ける事に成功しました。しかし、神闘衣も無事ではありませんでした。
 大神に再び伺いを立てた所、『聖域に救いの手在り』との神託を受け、第一の勇士をかの地へ遣わしました。
 第一の勇士は聖域の『泉守』である一人の女性を伴って帰り、彼女の手により神闘衣は見事に蘇ったと言われています。」


総てを語り終えると、ヒルダはを眩しげに見詰めた
の背に、嫌な汗が滴り落ちる

…つまり、『泉守』である私には神闘衣の修復能力があると、そう言う事なのか…
でも、生憎私にはそんな能力も技能も全く無いんだけれど…どうしよう
大体、聖域(あっち)では私に<『銀星砂』を運べ>と言っただけで、誰もそんな事は一言も…

聖域での件(くだり)をそこまで思い出したの脳裏に、女神のある言葉が閃いた
「…かの地では、今までに無い試練に立たされるやもしれません。しかし、その困難に打ち勝った時、『泉守』としての貴女の真の姿に目覚める事でしょう」

…もしかして、『今までに無い試練』『泉守としての真の姿に目覚める』ってこの事なの……!?

の目の前が、一瞬にして暗転した

そう言われてみれば、ムウも何か思わせぶりな態度だったような気もして来た
神闘衣の修復技能に目覚めなくてはならない、が、それには一体どうしたら…
いや、それ以前に、私に神闘衣の修復技能があると思っているアスガルドの人たちに何と説明したら良いのだろう…

嘘を吐く訳には行かないが、さりとて正直に言っても期待はずれな思いをさせてしまうかもしれない
の中で、相反する二つの考えが激しく葛藤した
…ええい、ままよ。自分には嘘は吐けない
腹を括ったは、ゆっくりと大きく深呼吸するとヒルダを向き直り、ありのままの真実を白した


「あの…その事なのですが、実を申し上げると今の私には神闘衣を修復するだけの技量は無いのです。」

「…え……。」


の告白に、今度はヒルダが驚きを顕にした
流石に神の代行者だけの事はあり、落胆の様子は微塵も見せないが、その内心の機微までは計り知れない


「…今の私ではまだ『泉守』としての日が浅く、皆さんの神闘衣を修復する事はできません。…が、必ずやその業を会得して見事直してみせましょう!」

さん……。」

「それが、『泉守』である私に課せられた試練だと…そう思います。」


力強く述べたの手を、ヒルダが優しく包んだ
が顔を上げると、目の前のヒルダも力強く頷いた


さん、貴女にならきっと出来ます。…私にはそれが判ります。
 貴女には、人を偽らぬ真っ直ぐな心を感じます。今より私たちアスガルドの民は皆、貴女の同胞(はらから)です。
 共に手を携え、この国の…いいえ、総ての国の真の平和を願いましょう。」


は、己の目頭が熱くなるのを必死で堪えながら頷いた






×××××××××××××××







「どう?お姉ちゃん、何か感じるかい?」


ワルハラ宮殿内に与えられた一室の、更にその隣の大きな部屋に貴鬼の暢気な声が木霊した
貴鬼の横で神妙な顔をしているの目の前には、傷付きバラバラになった8体の神闘衣が横たわっている
損傷の具合はそれぞれ異なるものの、どれも使い物にならない事だけは誰の目にも明らかだった


「そう、ね…。これでは身に付けるのは無理だと言う事は流石に判るわ。」


一つ一つのパーツを手で触り、は溜息交じりに貴鬼に答えた
…これを修復できる日など、本当に自分には訪れるのだろうか
ヒルダに誓った己の思いには勿論嘘偽りなど無いが、それを考えるだけでは少々気が重くなった

…もしかしたら、修復技術を身に付けていたのはその100年以上前の泉守個人だけの話で、私には無理だとかそんな可能性は無いのかしら…
いやいや、女神のお話を信じるなら修復技能も『泉守』の能力の一つの筈だわ
こんな入り口で挫けても仕方ないじゃないのよ…!

暗い表情をしたかと思えば急に頭を振って頷くに、貴鬼はぷっと笑いを洩らした


「変なお姉ちゃん。」

「何ですって、貴鬼。人が真面目に悩んでいるというのに、あなたって子は…!」


ポコン。
は感慨深げに自分の顎を支えていた片手を拳に握って、隣で笑う貴鬼の頭上に一つ落とした


「痛たたたっ!何するんだよう!」

「あんまり大人をからかっていると、帰ってからムウに言いつけるわよ!いいの?」


に取ってはただの茶飲み友達だが貴鬼にとっては絶対者であるその名前を出されて、貴鬼は途端に静かになった
よしよし、と少し満足げには頷いた
8体の神闘衣を向き直り、は目を閉じて掌をかざすと表面をスキャンするような仕草を作る
ぐるぐると暫くその所作を繰り返し、やがて諦めたように目を開いた


「駄目だわ、何にも感じない。…いいえ、それ以前にどうすれば何か感じるの?
 …ねえ貴鬼、あなたムウの弟子なんでしょう?何か知らないの?」


つい先程拳骨を落とした人物とは思えない口調で、は傍らに立つ少年に尋ねた
貴鬼はそれに対して何か言いたげに口を開きかけたが、慌てて手で口を押さえた


「…何?一体何を隠してるのよ、貴鬼?」

「…オイラがと一緒に聖域を発つ前に、ムウ様が言ったんだ。『これはが自分で気付いて会得しないと意味が無い事なのです。』って。
 だからオイラもどうしようもないよ。」

「『自分で気付いて会得しないと意味が無い』か。…そうよね、これをこうしたらできますよ〜って、そんな簡単な筈は無いものね。」


がはぁ、と再び溜息を零すと、貴鬼は見る見る悲しげな表情になって謝罪した


「ゴメンよ。オイラ、せっかく女神とムウ様からの事を頼まれたのに、何の力にもなれなくて…。」


力なく呟く貴鬼は今にも泣き出しそうだ
それを目の当たりにして、ははっと気付くと貴鬼の頭を優しく撫でた


「ううん、悪いのは私。貴鬼は精一杯私の事を気に掛けてくれてるもの。
 私こそごめんね、貴鬼の事叩いたりして。」

「ううん、オイラこそいいんだ。お姉ちゃん、頑張ろうよ。
 神闘衣の修復については、オイラ何も教えてあげられないけど、でも一つだけお姉ちゃんに教えて良いってムウ様に言われた事があるんだ。…それはね」


忽ち笑顔になった貴鬼はの耳元に自分の口を近づけると、何やら短くヒソヒソと囁いた
それを聞いたが、顔をしかめて首を傾げる


「『修復とは癒す事。そして癒す事は深く愛する事』…って、それはどう言う事なの、貴鬼?」

「し―――っ!大きな声で言っちゃ駄目だよお姉ちゃん!これは秘密なんだからさ。
 …でもね、オイラにも実はよく判らないんだ。ただムウ様がそう言ってたんだ。」

「あ、ごめんごめん。ちょっと驚いたから声が大きくなっちゃった。
 …でも、貴鬼は今『言葉の意味はよく判らない』と言ったけど、それは抽象的すぎて私にも良く判らないわ…。」


傾げた首を更に傾げ、はムウのその言葉を心の裏(うち)で反芻した

『修復とは癒す事。そして癒す事は深く愛する事』…か。う―ん、本当に抽象的すぎてどうしていいんだか…
つまり、『深い愛』を神闘衣に注ぎ込めば良いって事よね…?

は瓦礫と化した神闘衣を目の前に、傍らの壷から徐に銀星砂を一つまみ持ち上げるとパラパラ、と均等に振り掛けた
そして再び自らの掌をかざし、目を閉じて念じた

…私の愛を、この神闘衣に。私の愛を、この神闘衣に………!

たっぷり数分念じ、はその瞳を開いた
…が、変化は何一つ起こっていなかった
がっくりと頭をうなだれ、が低く唸る


「ああ〜、やっぱりそうよね。『深い愛』って言われても漠然としすぎて何を思えばいいのか判らない……!」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。きっとどうにかなるって!」

「…ありがと、貴鬼。」


どうにかなる…って、それが差し迫っているから困ってるのよね…

は内心で「愛、愛、愛…」と陳腐な歌詞のように何度か繰り返し、貴鬼が聖域からわざわざ持って来てくれたムウの修復用の鑿(のみ)を取り出そうと、床に置いた麻袋に手を伸ばした
コンコン。
突如、部屋のドアをノックする音が響いた
は慌てて手を引っ込めると、銀星砂の壷に蓋をした


「はい、どなたですか?」

「…私だ。中に入っても構わないだろうか。」


…ジークフリートだ!
は聞き覚えのあるその声にドキリとして、背後の扉を顧た


「…どうぞ。鍵は掛かっていませんよ。」

「失礼する。」


アスガルド第一の勇士は静かにドアを開き、敷居を潜ると再び扉をゆっくり閉じた
椅子に腰掛けていたが立ち上がろうとすると、ジークフリートは笑いながら片手で制した


「いや、そのままで。…私は、貴女の様子を窺いに来ただけだから。
 …貴女の側まで行っても良いだろうか?」

「あ…、え…ええ。」


先程までの落胆振りとは裏腹に、の返事はどこか上の空だ
座って、と言うの提案を優雅な笑みで謝絶して、ジークフリートはの側に立った
元来が恐ろしく長身のこの男が座したの側に立つと、いよいよもって大きく感じられる
泉で出会った時とはまた異なる緊張が俄かにを包んだ
ジークフリートは、横に座ると自分達の神闘衣を交互に一瞥した
…どうやら修復が順調に行っていない事を察し、ジークフリートはすまなさそうに淡い色の瞳を細めた


、貴女には苦労を掛けて申し訳ないと思っている。」

「…いいえ。私の方こそ、本当は此処に来る前に修復能力を身に付けていないといけなかったのに。」


…ああ、この身の不甲斐なさが何てもどかしい
この男(ひと)の神闘衣もこんなに傷付いたままなのに…!

内心で、はギリギリと歯噛みした
ジークフリートとは逆側に立つ貴鬼も、の焦りが判るだけにどこか浮かない表情だ
その様子を暫し黙って見ていたジークフリートは、徐にその整った口元を開いた


、…もし貴女が良ければだが、私と少し外を散策しないか?」

「…散策?…私と貴方が…?」


ジークフリートの唐突な提案に、は驚きを隠せない


「…ああ。考えてみたら、貴女はアスガルド(ここ)に来て、まだこの土地を見ていない。」

「…確かに。そう言われてみたらそうだわ。」

「アスガルドがどのような所なのか、その目で具に見るのも悪くはないだろう。
 もしかすると、それが何か貴女の手助けになるかもしれない。…それに。」

「…それに?」


一旦言葉を切ったジークフリートを、は見上げた
からじっと見詰められたジークフリートは再び沈黙に落ちたが、その逡巡を打ち破って言葉を続けた


「…私の国を…、貴女に良く知ってもらいたい。」


無言で頷いたの胸を、早鐘が激しく鳴り響いた







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