…後は、簡単な事だった。
私は、ただ『黒いもの』の声に従いさえすれば良かったのだから
時折我に返った時も、総て『黒いもの』のせいにすれば良いだけだ
………本当は知っていた。『黒いもの』とは私自身が生み出した『理由(いいわけ)』に過ぎない事も
…だが原因が判った所で、私には引き返す道は無かったのだ…





飛び込んで来たのは、アイオロスの方だった
夜陰に乗じ「長じた後、自分の正体を見破るのは必定」と、降臨したばかりの女神を殺めようとしたサガの腕を、アイオロスが阻んだ


「き…教皇、正気ですか!?」

「アイオロス!!」

「貴方はご自分のなさっておられる事がわかっているのですか!
 この子は数百年に一度、神がお下しになる女神の化身!それを…」

「邪魔をするな、アイオロス!」


…女神を奉じ、どこまでも『英雄』面か。女神を殺めた後、お前も片付けてくれる…のために!

今や、憎しみも露にサガが短剣を振り上げると同時に、アイオロスの拳がサガの手から素早く凶器を払い落とした
黄金聖闘士の小宇宙は凄まじい。その余波でサガの頭部を被っていた教皇のマスクが飛んだ
驚愕のあまりに言葉を失い、あやうく手を取り落としそうになったアイオロスが、女神をしかと抱え直す


「サ…サガ。どうしてお前が此処に…。」

「随分と驚いてくれるものだな、アイオロスよ。」


ククク、と低く笑い声を立てるサガの心の奥底では、『コロセ』の三文字が呪文の如くその振幅を増す
…髪の色も表情もまるで別人の様だが、目の前の男はサガ以外の何者でも無い
友のあまりの豹変ぶりに、アイオロスは愕然とした表情を隠しきれない
その様をさも面白げにほくそ笑み、サガは目を細めた


「親友が此処に居ては可笑しいか、アイオロス。」

「な…何だと。…では教皇は…。」

「殺してくれたわ、このサガが。…昨晩のうちにな。」

「な…!」

「あの男は邪魔以外の何者でも無かったのでな、片付けた。そして、そら、お前の抱いているその赤子も間もなくその後を追う。」


…これがサガだと…?

出来得ることなら、アイオロスはそれを否定してしまいたかった
無二の友の身に、一体何が起きているのか
何か悪い物にでも取り憑かれているとしか思えない
ほんの一瞬、村から帰ってきて後のサガの態度がアイオロスの脳裏を横切った
…だが皮肉な事に彼は『聖域の真の英雄』であるが故に、友の過去より目の前の女神の危機を無意識に優先してしまっていた


「教皇を殺害しただけに止まらず、女神を弑し奉るなど正気かサガ!」


サガを詰る声の形を取って、埋まらない二人の間の亀裂が音を上げて更に深くなる
…もし、アイオロスがサガの苦悩に気付いてやれていたなら。…へのサガの想いに気付いていたなら。その可能性は、仮定のまま闇の中に虚しく消えて行く


「…何を今更。丁度良い、邪魔をするなら貴様も片付けてくれる。」


漆黒の法衣を纏ったサガが、己の胸の前で両の手をゆっくり交差させた
サガの小宇宙の高まりに比例して寛衣の袖が激しく翻り、黒髪がたなびく

…目の前のこの男を葬れば、私こそが双無き『英雄』になる。
『英雄』に……そうだ、この世界に一人の“至上の存在”になれば、は私を……!


「死ぬが良い、アイオロス!」


カッ!
サガの双眸が大きく開くと同時に、交差した両の腕から光が溢れた
憎しみに染まった小宇宙が一筋の矢を形取り、アイオロスの左胸をめがけて放たれる
パシッ
サガの憎悪の拳を、アイオロスは寸手の所で受け止めた
だが、片腕には女神を抱いているのだ。もう片方の腕だけではとても友の拳は受け止め切られよう筈も無い
ジリ…ジリとサガの拳の威力が徐々にアイオロスの左胸に迫る

…くっ、このままではこちらが不利だ。…しかし、サガの拳にこめられたこの憎しみの小宇宙は一体…?

己の掌から零れ落ちるサガの小宇宙から女神を守るため、アイオロスは己の身体を僅かに横に傾けた
サガの小宇宙の威力が女神から遠ざかるその代償に、アイオロスの上腹部を光の矢が貫いた


「ぐっ……!」


アイオロスの口から、血を交えて苦悶の呻きが洩れる
サガの拳圧を抑えていた腕でアイオロスは己の口元を拭い、サガによって穿たれた傷口に掌を当てた
指が微かに触れた途端、ヌルリとした血の感触と共に、脊髄を激痛が走り抜ける

…長くは…持たない…

痛みに顰めた目で覗き込むと、己の腕の中の女神が無邪気に笑った

…女神を…守り参らせねば…!


「サガ、目を覚ませ!教皇も女神も、お前の守るべきものだろう!」


ゴフッ。
その語尾を遮り、アイオロスの内臓から血が逆流した
その様に、サガが冷笑を投げかける


「幾ら吠えた所で、お前の命もこれまでよ。」


ククク…と笑い声を洩らしながら、サガの拳が再び振り上げられる
…サガは本気だ…。あいつの力量は、この俺が一番知っている。……ならば。
アイオロスは、先程の衝撃の余波で己の後ろに穿たれた大きな穴を一瞥した


「死ね!」


サガが己の小宇宙を高め、技を繰り出すその一瞬の虚を突き、アイオロスは壊れた壁面から下を目掛けて一息に跳躍した
アイオロスを追うかの如く、サガの金色の小宇宙が空を切り外部に拡散する
…教皇宮の裏は深い森だ、アイオロスは夜陰に乗じて聖域を抜ける心積もりなのであろう
チッとサガは彼らしくない舌打をすると、教皇のマスクを再び身に付けた

…あの赤子が女神か否かは、常人には計り知れまい。だが…アイオロスだけは生かしておくわけにはいかぬ

アイオロスが逃げた森の方角を仰ぎ見、サガは俄かに眉を顰めた

…ロドリオ村に駆け込むつもりか、アイオロス…!

森を延長した先には、サガも通い慣れた小さなその村があったのだった
無論、「近く」とは言え相当な距離が隔たっているのだ、深手を負ったアイオロスがそこまで逃げ切れる可能性は皆無に等しい
……が、村の住人に――に――自分の犯した罪を知られる事だけは絶対に避けねばならない

やはり私自身の手で、アイオロスを葬り去らねば…

もはや殺意のみに満ち満ちたその顔を側近くの巨大な鏡に見出し、サガは息を呑んだ

…なんと言う表情だ。羅刹とはこの事…

鏡に映した、血の色をした己の瞳を指でなぞり、サガはつい最近までの平穏な生活を思い起こした
友がいて、信頼できる多くの人たちがいて、そして仄かな想いを寄せる女(ひと)がいる……
どこでそれが狂ってしまったのか、何が間違っていたのか

………だが、私にはもう如何とも出来ないのだ
退がる事は出来ない。ならば進むしか道は無い。…例えそれがどんな危うい道で、辿り着くところが破滅であったとしても…
『コロセ』
もう一人の自分もそう言っている。ならばそれに従ってみよう
…『もう一人の自分』の正体が『己の言い訳』だと、そう判っているとしても

サガは教皇のマスクをやや目深に被り直し、一息置いて壁に穿たれた穴を更に拡げた
先程、己の拳から散った小宇宙に気付かぬ聖闘士もいない。じきに彼らが駆け付けるだろうが、雑兵たちにも知らせねばならない、『アイオロスを殺せ』と…
アイオロスを断じて聖域の外に出してはならぬ……!


「誰か出会え――――っ!アイオロスが叛逆を試みたぁ―――っ!」


深い静寂に染まった聖域の夜の帳を、「教皇」の声が激しく引き裂いた





++++++++++++++





サガの望む通り、アイオロスは死んだ

聖域も残すところあと僅かばかりと言う場所で、アイオロスの遺体を発見したとの報告を聞いた時、サガは安堵と微かな後悔の入り混じった溜息を落とした
人が他人を憎むのはその人間が現に生きて自分に害を為しているからであって、死した人間に対してはその憎悪は薄れ、後は美しい思い出の住人に変換されるだけである
サガの心の奥底に生まれた僅かな後悔の念は、その類のものであり、そして同時に全く逆のものでもあった
…アイオロスは死んだ。だがはまだ生きている
自分の中の「を恋う気持ち」がアイオロスを殺してしまった以上、に対する「許婚を奪い去った」と言う生々しい後悔の念がサガに残った
しかも、アイオロスが聖域を出ずに死んだと言う事は、はアイオロスの真実を知ること無く、「アイオロスの死の報せ」だけを後日受け取らされるに違いない
これらの事を考えると、意気揚々とに会いに出かける事などサガにはもっての外だった
もし村に出掛けたならば、は自分にアイオロスの事を必ず尋ねて来るだろう。だがその時にその質問に答えられる自信がサガには無かった
…アイオロスを殺してしまったのは、誰でもない自分だったのだから
相も変わらずを想う気持ちと、に対する罪の思いの狭間で、サガは身動き一つ取れない程に己の心を縛られていた





++++++++++++++





その心中は秘しながらも黙々と「教皇」の務めだけは果たしていたサガの元に一人の神官が奏上に上がったのは、アイオロスの死から一月ほど経った頃だった


「ロドリオ村の住人の一人が、是非とも猊下にお目もじ仕りたく、と申しておりますがいかが致しましょうか?」


ロドリオ村。その一言にサガの背に見えぬ緊張が走った
書類を決裁していたサガの逞しくも瑞々しい手が、ピタリと止まった


「ロドリオ村はこの聖域に取って第一の村。話を聞くのは無論やぶさかではないが、用件は聞いたのであろう。何用とな。」

「御意。先方は村人と申せ、若き女人でございますが、ただ猊下に内密にてお尋ねしたき議あり、とのことにて…。」


だ、それはに違いない。とうとうこの時が来たか……

サガは、仮面の下で愁眉を寄せた
が会いに来たのだ、これほど待ち遠しかった瞬間はないのだから喜んで然るべきなのだが、「教皇」である手前と、時間の経過により大きく膨らんだ後悔の念が「喜び」を遥かに凌駕していた
何より一番重要なのは、は「教皇」に会いに来たのであってサガに会いに来たのではないと言う事だ
サガは、自分が「教皇」であることを明かすことはできない状況にあった

……まだ衆知でなかった次期教皇を殺して自らが「教皇」の座を手に入れたのだから、サガはその時点で「自分こそが次期教皇に指名された」と公言してもよかったのである
だがそれには肝心の「位を引き継がせる儀式を取り計らう前教皇」がいなかった
…無論、それはサガが殺してしまったからであるが、矜持を深く傷付けられ憎悪に駆られた結果である以上、今更後悔したくも無かった
仕方なくサガが取った手段は、『アイオロスが女神殺害・逃亡を図ったためこれを誅殺し、今回の事態を悟られぬためにサガをオリンポス始め各界偵察に長期派遣、女神弑逆の再発に備え、女神の成人まで現教皇職を延長する』として、本来なら「前教皇」として引退するはずであった老人に成りすますより他になかったのであった

…今は、「教皇」としてに接するより無い

サガは、深い溜息を吐いた
その様子を伺っていた神官がおずおずと顔を上げる


「…如何いたしましょうや?」

「…会おう、通せ。…だが表の謁見室ではなく、この執務室にて用件を聞く。その間は誰も近付いてはならん。」

「御意。」


少々小走り気味に、神官は回廊の向こうに消えた
サガは、愛するべき女(ひと)に対して「教皇」としてこれから話し通さねばならない苦しい「虚構」を整理しながら、遣り切れずに頭(こうべ)で天を仰いだ





++++++++++++++





酷くやつれたの表情に、サガはマスクの下で唖然として息を呑んだ
許婚の死を告げられて、泣き暮らしているのだろうか。悲痛に満ちたその面持ちは以前の明るく溌剌としたのものではなかった
ズキリ…とサガの胸に痛みが走る
今更言っても詮無き事ながら、の笑顔を奪ったのは他の誰でもない自分なのだ…しかも、自分の想い故
悲嘆に暮れるを前に、「君を愛している」とマスクを取ってその想いを公言できたならどれだけ幸福であったろうか
しかし、今はそれは出来ない。親友に対して抱いてしまったあさましい感情の存在をに知られる事だけが怖かった
愛する人を前にして、赤の他人として振舞い続けねばならない
…それが自分に課せられた最大の罰だと、サガは自分に言い含めなければならなかった
内心でのみ大きな溜息を落とし、サガは声音を「教皇」のものに整えた


「ロドリオ村の娘よ、私に尋ねたい事とは何用か。」

「…私は、と申します。私は………私は…アイオロスの許婚でございました。」


泣き疲れてやや落ち窪んだの目から、無色の水滴が滴り落ちた
教皇の手前、精一杯堪えていたのだろう。サガにもはっきりと判るほど、それは大きな粒だった
、そんなに泣かないでくれ。サガの口を突いて言の葉が零れ落ちそうになる
サガは喉元でその一言を必死に飲み下した

教皇として、に残酷この上ない偽りを告げねばならない
…すまない、


とやら。そなたの言いたい事はよく判った。…アイオロスについてであろう。」

「…はい。我がロドリオ村は聖域に一番近い村でございます。先日、聖域から村に来た方のお話で、私の婚約者であるアイオロスが、無礼を働いて討ち取られた、と。
 …それは本当でしょうか?」

「……真(まこと)だ。アイオロスは乱心し、降臨なされたばかりの女神に自ら手を下そうとした。
 その罪により、聖域はアイオロスを誅滅した。」


心の裏(うち)を総てその黒い法衣に覆い隠し、サガは冷たく言い捨てた
目の前に跪いていたが、その言葉に細い肩を震わせる


「ア……アイオロスは、彼はそんな人ではありません!私の知るアイオロスは、優しくて、正義感に溢れる人でした…。それが何故…!」

よ、それはそなたの主観に過ぎない。今はアイオロスの性格ではなく、彼の犯した過ちが問題なのだ。…確かに」


サガは一息に述べると一旦言葉を切り、すっと大きく呼吸をした


「…確かに、彼が義に溢れた好漢であったことには相違ない。だが、何故かは判らないが、彼は乱心し、守るべき女神に害を加えようとした。
 女神を守護し奉る聖域としては、それは誰であろうと断じて許されざる罪なのだ。」

「…そんな…。」


は力なくその場に崩れ落ちた
キリキリと痛む胸を抱え、サガも沈黙に落ちる
だが、それも長くは続かなかった。が再びその顔を上げ、頭(こうべ)を激しく横に振った


「…いいえ、きっとアイオロスには何か事情があったのです。だって…彼は次の教皇になるかもしれないと、私にだけそう教えてくれたのですから。」


……ああ、それを言ってくれるな
自分が教皇にはなれないと、そう告げられた瞬間を思い起こしてサガは目を閉じた
ざわざわと、心の底にねばついた嫌な感情が湧きあがり、彼の身体を再び蹂躙する


「それきり、彼は村には来ませんでした。…だからきっと、何かに巻き込まれたに違いありません。
 猊下、貴方はきっと何か御存知ではないのですか?私に教えてください!!」


は立ち上がり、サガに縋った
泣きながら飛び込んできたを、サガは咄嗟に受け止めた



「………貴方は…!?」



漆黒の法衣に包まれたその瞬間、の背中に憶えのある感触が拡がった
自分の身体を受け止めるその胸にも、は確かな記憶があった


「…サガ、貴方はサガでしょう?」

「………アイオロスは死んだ。…すまない、。」

「サガ…貴方がどうして…。」


…断罪の斧が、私の上に振り上げられた。

サガは、から一歩離れると静かに教皇のマスクを外した
端整なその顔は、と同じく今は苦悶に歪んでいる
は驚いた眼差しのまま彼を見上げ、暫くしてはっと息を呑んだ
………サガの表情の中に、総ての真実を見てしまったから


「すまない、。」

「サガ…貴方がアイオロスを…。でも何故……」


サガは黙ったまま、を再びその胸の内にかき抱いた


「…。私はただ君を………。」

「…だからアイオロスを………?」


サガは何も応えない
…ああ。
は瞳を閉じて、気の遠くなりそうな自分をかろうじて支えた


………。私は…私はただ君のために、『英雄』になりたかった。」

「『英雄』…なんて関係無い。…私は、ただアイオロスと共に生きたかった、ただそれだけなのに…。」


は、自分を包むサガを見上げた
サガの、血の色をしたその瞳に、彼の苦しみの総てが語られていた
悲しげな表情で暫しサガを見詰めていたは、やがてニコリ、と微笑を浮かべた
サガの大きな両の手を取り、自らの鎖骨の上にそっと置く


「私を殺して、サガ。…事情を知っている私を殺せば、貴方は『英雄』になれるわ。」

「…、何を…!?」

「…サガ、貴方は『英雄』になりなさい。私がそれを望んだと言うのなら。」


サガの指を自らの首筋に当て、はその上からぐっと己の力を込めた


「…私はもう、生きていたくないの。だからサガ、貴方が望む『英雄』になる手伝いを、最後に私にさせて…。」

「何を言うんだ、。私は……!」


抗おうとしたサガの唇を、の柔らかな唇が遮った


「赤い瞳のサガ、どうか私を殺して………!」


…もう間に合わないのか、総てが…

笑みを浮かべたまま懇願する最愛の女(ひと)を前に、サガは己の心を『言い訳の自分』に譲り渡した





++++++++++++++





…私は『英雄』になった
他人の振りとは言え、「教皇」としてこの聖域に君臨することを成し遂げたのだ
今では協力者も幾人(いくたり)か手にした。総てを思うが儘にする力を持つのは、名実共に地上ではこの私だけだ

………私の愛する、その女(ひと)がそれを望んだのだから
















☆ 後書き ☆

本来は企画用作品であったので、珍しく後書きを記します、ほたるです。
まずは完結まで随分お待たせしました。連載並に遅筆になってしまって申し訳ありませんでした。(汗)
「双子誕企画!」と言いながら、完結した今日は射手座じゃあないですか!(笑)
わ〜お、ある意味もう一人の主人公であるアイオロスをも祝っちゃう恐ろしい企画作品になりましたね。

今回の双子誕企画にあたり、サガ夢を二本書こうと思った時に共通する大きなテーマがもう決まっておりました。
双方をお読みいただければ一目瞭然かもしれませんが、「サガの人格」がそれです。
原作を読んでいる限り、二重人格どころか三重人格くらいはいそうな気がしてならないのですが、それは置いておいて彼は二つの人格を持っている事になっています。
原作やアニメでの扱いから感じ取られるのは、「サガに悪い物が取り憑いて二重人格になった」と言う憑き物説です。(「白虹〜」はこのスタンスに基づいてサスペンスっぽく書いてみました。)
…しかし、原作での「教皇に選ばれなかった経緯」の描写(惜しくもアニメではこれが描かれなかったため、サガがほんまもんのワルにしか見えなくて私としては悔しいのですが)を追って見る限り、彼には「悪い物が取り憑いた」と言うよりも、「自ら別人格を生み出した」と思えて仕方ないのです。
つまり、「誰よりも優れている」と普段から自負していた彼が、「教皇に選ばれなかった」その事実を内部処理するために、もう一人の人格を生み出した…とでも言いましょうか。
原作ではそんな風にも取れる描写なのです。(多分、「憑きもの説」と「人格分離説」双方の要素が原作にはありそうですね。)
ただ「教皇に選ばれなかった」と言うだけではなく、もっと違う要因が入ってきたらこの「人格分離説」はもっと深みのある話になりそうだな、と考えたのが今回の話です。

客観的に観て、「憑き物」や「解離性人格障害」をとっぱらってもやはり次期教皇にはアイオロスの方が適切だと思います。
サガは、「王者」よりも「王佐の才」の方に恵まれている気がしてならないのです。…結構いろいろ細かそうな点ですとか。(笑)
だが、彼も15歳。しかもヒエラルキーのしっかりした社会に長年生活し、そこに己を同一視している以上、組織のトップである「教皇」になる事が一番凄い事だと思っても当然ではないでしょうか。
…それゆえに、「教皇」に近い所にいながらなれなかったというのが、彼の内面を激しく揺さぶったのでしょう。…だから、教皇もアイオロスも憎い。
もう少し彼が大人になった頃にこの教皇選があったなら、彼も己の才能の活かし所が判る故にこんな事態にはならなかったんじゃないかと想像するとちょっと悲しいです。

…まあそれは置いておいて。(笑)
以上の事情だけでも人格の一人や二人生まれそうなものですが(そうか?)、更にここに恋愛模様が挟まったら決定的になる気がしてこの作品を書いてみました。
このヒロインは、最後までサガの想いに気付かなかった事になります。本当にアイオロス一筋で。
ちょっと軽率に思える発言もあるのですが、彼女もサガと同じくらいの歳だと言う事を思い出してもらえれば理解しやすくなるでしょう。
彼女に取っては「アイオロスであること」が何よりも重要なのですが、ちょっとした食い違いからサガがそれを誤解してしまい、そこに次期教皇の一件も挟まって遂には取り返しのつかない事態になってしまいました。
悲恋物は初めてだったので自分でもうわ〜っとは思いました。暗い気分になった方がいらしたら申し訳ないです。(汗)
最後に、この作品を通して「夢書きなりの視点で原作の穴を埋めてみたかった」、それがこの作品における私の主題です。







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