雪色の天使









「さあ、さん・・・行きましょう。」
「お嬢様!こんなドレス・・・私には。」
はアテナ城戸沙織の専属秘書官だった。今日は、沙織の企画したクリスマスパーティ。
自分は単なる手伝いの役回りだと思っていたは、あまりの展開についていけなくなりそうだった。
沙織に選んでもらったドレスは、真珠をあしらった雪のような真っ白のドレスで、かなり胸元が開いている。
「まあ、何をおっしゃるの。貴女のような方がいらっしゃらなければ・・・黄金聖闘士達にも、ギリシャからわざわざ来てもらったのに。」
「そうですよ。皆、貴女に会うのを楽しみにしてるんですから。」
付き添っている瞬がクスクスと笑う。
「でも・・・おかしくない?」
「いいえ。とっても素敵ですよ。僕みたいな子供じゃ、お相手はとても務まりませんけどね。」
「ふふ・・・さんのお相手は、誰が相応しいのかしらね。」
(「お嬢様、瞬さん・・・何を企んでらっしゃるんだろう?」)
城戸邸の長い廊下を歩く間中、は少し不安に思いながら、大広間に足を踏み入れた。




大広間には、正装した聖闘士達。
メイドからシャンパンを受け取った牡羊座アリエスのムウは、そのメイドがぼんやり見とれている美しい男性の存在に気が付いた。薄いパープルのタキシードの胸に、赤い薔薇・・・。
「おや、アフロディーテ・・・やはり貴方は、こういう華やかな場所がお似合いですね。」
「フッ、ムウか・・・君もなかなか良いセンスをしているではないか。」
ムウは黒いタキシードをシックに着こなしていた。
「貴方にそうおっしゃって頂けるとは・・・光栄ですね。」
「そういえば、君はダンスはできるのか?」
「ええ、多少は心得がありますよ。」
「それは初耳だな。・・・しかし、あの女性(ひと)と踊るのは・・・この私、アフロディーテだけ。」
アフロディーテはそう言って、自分のグラスを置いた。




「皆様、タキシードをお召しになったんですね。素敵ですわ。」
「そうかね・・・君さえよければ、この後私と共に。」
「いや、、俺と一緒に飲みに行こう。」
「えっ・・・あの、それは・・・。」



「おや・・・これは騎士(ナイト)の出番のようだね。それではムウ。失礼するよ。」
アフロディーテは胸に飾った赤い薔薇の花を手に取ると、「姫君」の許へ向かった。
ムウは何も言わず、シャンパンを飲み干す。



「すまないね。このお嬢さんは・・・今夜は私との予定があるんだ。あまり困らせないでくれ。」
「アフロディーテ・・・様?!」
「これは手早いな。このシャカも・・・そういうことだけは君には叶わないようだな。」
「ちっ、お前、今日はドレスじゃなかったんだな。」
仲間たちの毒舌を背に、アフロディーテはの髪に薔薇を挿すと、その手にキスをした。
「今宵のお相手は、このピスケスのアフロディーテが・・・姫。」
西洋式の挨拶に慣れないは、恥ずかしさに思わずうつむいた。
「アフロディーテ様、どうなさったのですか?」
「いつも気づいてくれない・・・ひどい女性(ひと)だ。そして、この私を・・・迷わせる。」
アフロディーテはそのままの腰に手をまわす。
「美しい。まるで、白雪のような・・・ああ、私の色に・・・染めてやりたい・・・。」
「・・・!」
アフロディーテがいきなり唇を重ねて来たので、は驚いて身を放してしまった。
「あ・・・。」
「ふふ・・・逃げないで・・・可愛いひと。」
そんなの仕草さえ、アフロディーテは愛しくてたまらなかった。



「お待ちなさい、アフロディーテ。」
「ムウ・・・不粋だぞ。」
「アフロディーテ、ここは日本・・・は日本の女性です。いきなり口づけなど、持っての外・・・ほら、怖がっていますよ。」
「何?・・・、このアフロディーテを・・・恐れているのか?」
アフロディーテの美しい瞳にじっと見つめられ、は言葉をなくした。
「・・・いえ、びっくりしただけです・・・。」
「アフロディーテ、すみませんが・・・のお相手はまず、このムウが。」
今度はムウがの手を取る。
「ふっ。まあ、12宮の順番からして、私が君の前に来るというのもおかしな話だな。・・・いいよ。・・・私の身体はいつも、貴女のために空けている。」
「アテナの黄金聖闘士が、何をおっしゃいます。」
(「何だか・・・険悪な雰囲気・・・お二人とも、言葉は丁寧だけど・・・。」)



「さあ、私と・・・踊りましょう?」
「はい、ムウ様・・・。」
ムウは優しく、の肩を抱き寄せる。決して積極的にではないが、そっとの髪に触れていく。
「ムウ様・・・ダンス、できるんですね。」
「ふふ・・・こっそり練習したのですよ。」
「練習?誰と練習なさったんです?」
「・・・西欧出身の黄金聖闘士達に教わりました。しかし、男と踊るのはあまり良い気分ではありませんでしたね。」
「そ、そうなんですか?ムウ様が・・・ふふふ、見てみたかったですわ。」
「そんなに笑わないでください。貴女とこうして・・・踊るためだったのですから。」



(「何を・・・話している。ムウの奴・・・レディを楽しませる会話術など、持ち合わせているとは思えんが。・・・があのように楽しそうにしているとは!」)
「まあ、ムウ、まるで王子様ね。あんなに優雅に踊れるなんて・・・。さんの今夜のお相手はムウのようですね。」
沙織がうっとりととムウを見守る。
(「アテナまで・・・王子様だと?の?ふっ、それもここまでだ。」)
アフロディーテは広間に掛けられた大きな鏡の前でネクタイを直すと、二人の側へ近寄った。



「ムウ、そろそろ姫君をお渡し願いたい。勝負はフェアにいきたいのだが。」
「ふふ、さすがの貴方も不安になられましたか。よろしいでしょう・・・、貴女は皆の華。しばしの間、お別れですよ。」
ムウは恭しく一礼をすると、背を向けてバルコニーへ出ていく。
「あ・・・お相手ありがとうございます、ムウ様!」
姫・・・レディはそんな事は言わなくてよいのだよ。」
「アフロディーテさ、ま・・。」
の手を取り、跪く。
「さあ・・・貴女の美しさを・・・もっと、私に見せておくれ。」



アフロディーテの踊り方は、どこか艶かしく、の首筋に時折息を吹きかける。
(「アフロディーテ・・・様っ!」)
・・・このアフロディーテに・・・抱かれてみたいと・・・思わないかい?」
そう囁いて、のウエストをさらに引き寄せる。
は恥ずかしさにくらくらしながらも、間近で見るアフロディーテの顔の美しさに、思わずじっと彼を見つめてしまった。
(「ふふ・・・、そうだよ・・・私だけを見ていればいい。」)



パーティーは夜通し続いた。
「はあ・・・もう、こんな時間か。」
少し疲れたはそっと大広間を抜け出し、廊下に置かれた休憩用のソファーに座った。
「慣れない格好で・・・慣れないダンスなんか踊るのは、疲れるな。でも・・・。」
の心は揺れていた。
(「ムウ様・・・アフロディーテ様・・・二人とも、素敵な方。」)
けれど、所詮自分とは世界の違う人。
恋をするなんて・・・この、私が・・・。



「おや、・・・こんな所で・・・疲れてしまったのですね。」
を探しに大広間を出たムウは、廊下のソファーの上で眠ってしまったの姿を見つけた。
「いつも、ご苦労様ですね・・・ああ、何て可愛い・・・、許してください。」
その桜色の唇に、思わず引き寄せられるムウだった。



「・・・!」
ムウの目の前に、白い薔薇が突き出される。
「・・・アフロディーテ。」
「そんなに怖い顔をしなくても、これはブラッディローズではないさ。」
「貴方こそ、不粋な方だ。」
「ふっ、お互い様さ・・・さあ、眠り姫を部屋までお送りする栄誉を、私に譲るか?」
「う・・・ん。」
の寝言に、二人は顔を見合わせる。
「シッ・・・静かになさってください。が目を覚ましてしまいます。」
「ああ・・・幸せそうな寝顔だ・・・できるなら、ずっと見ていたい。」



聖夜の天使・・・真っ白な羽根の。
貴女の後ろ姿を・・・ずっと見ていたのですよ。
貴女の声を聞くたび・・・胸が高鳴ってしまうのだよ。
「アフロディーテ、今宵はクリスマス・・・停戦と行きましょうか。」
「そうだな・・・彼女が目覚めるまで、こうしているか。」



が目覚めたとき、どちらの名前を先に口にしてくれるのか・・・。
二人の騎士(ナイト)は、静かなる火花を散らし、守るべき姫君・・・の眠りを見守るのだった。







END









管理人よりv


先日、まきりん様のサイトにてキリ番「8888」をゲットいたして戴きましたムウ&アフロディーテ夢ですv

…タイムリーにクリスマスのお話です。(「マッパ聖衣」と騒いでいる管理人、大反省です。笑)
「ヒロインを挟んでムウとアフロディーテが一騎打ち!」というこちらのとんでもないリクに、見事にツボな作品を戴いちゃいましたねv
チリチリと嫉妬に駆られるアフロディーテ、すっごく男らしくて痺れます。…流石はアフロディーテ最愛のまきりん様!
そしてまた、ムウが良いんですよv寝てるヒロインを持って帰っちゃいそうですよね!
この二人が星座がお隣、というのもよーく考えるとなかなかオツな設定ですね。
二人の千日戦争をちょっと垣間見てみたい気もします。(笑)

それにしても、一体誰と踊りの特訓をしたのですか、ムウ様…!?(爆笑)

密かにチラっと出てきたおシャカ様に、私どきどきしてしまいました。(笑)
皆様のクリスマスにも、きっと素敵なアノ方が…!?

まきりん様、今回はどうもありがとうございましたvv…管理人もリク作品の執筆、頑張りますので。(汗)






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